危なっかしいほどまっすぐで、率直な好意を容赦なしにぶつけてきた、変わった子。

初めて拓く楽しみを知った身体。


無垢な彼女は、何ひとつ知らないくせに無駄に勇敢で、Bに応えようと懸命に頑張って。

いじらしくて健気で、時に笑ってしまうくらい大胆で、Bを困らせた。



傷つけた。

謝りようもないくらい、傷つけた。

さらに悪いことに、最終的にはそうなることを、Bは最初から、知っていた。



何度も引き返そうと思った。

今日終わりにしよう、明日終わりにしようと毎日思っていた。


だけどなぜか、彼女が伺うように部屋のドアをノックする、軽やかな音を聞くたび。

もう少しだけ、と自分をごまかし続けた。



俺じゃダメだよって、伝えたつもりだった。

離れたほうがいいよと警告もしたつもりだった。

いっそ自分がどんな人間なのか、全部教えてやろうかと思ったこともあった。

けどそうしなかったのは。

無謀なほどひたむきな彼女が、全部知った上で「それでもいい」なんて言いだした日には、それこそどうしようもなくなるからだ。


なんで、よりによって、こんな自分を。

神様、あの子はいつだって、あんたに祈りを捧げてたのに、こんな目にあわせて。

よそ見でもしてたの? と自分を棚に上げて、信じてもいない存在を責めた。


もしいるんなら、あの子の心から、自分の存在を消し去ってよ。

そんな都合のいい願いまで浮かぶ。


元より彼女は、もう自分のことなんて、忘れているだろうか。

本当のBを知って、目を覚ましただろうか。

もう、Bがつけた傷なんて、残っていないだろうか――



携帯が震えた。



一瞬、寝ていたらしい。

ベッドに倒していた身体を慌てて起こし、サイドテーブルに手を伸ばす。

十中八九、編集部に連絡を入れた人物からだろう。


ちょっとした親切心と社会的な気配りから、繋がった電話に向かって、珍しく名乗ってみた。


なぜか向こうは、何も言わず。

なぜかBには、その瞬間、すべてがわかった。