「読まれたくないんなら、書かないでください」

「怒るくらいなら読まないでよ、そう書いたじゃん」

「書いてませんでした、そんなこと」

「そうだっけ、もう忘れちゃったよ…」



私は全部覚えてますよ、読みあげましょうか、と食ってかかると、いいよいいよ、と慌てて首を振る。

そんな仕草にも、腹が立った。

どうしてそんなに、変わってないんですか。



「顔、怖いよ」

「先輩は結局、自分を許す気がないんでしょう。今だって、ちょっと私を満足させたら、またどこかに行く気でしょう」



先輩の目からふと笑いが消える。

図星だ。


信じられない、勝手な人。

まるで告解みたいなあの手紙も、よくよく読めば、悲しいくらい一方的で。

懺悔のふりをして、私にできることなんて何もないって、痛烈にそう伝えていた。



「千歳さんにも、連絡ひとつ入れないで」

「千歳と会ってるの?」



愕然とした声を出す先輩に、一枚の写真を呼び出した携帯を突きつけた。

先輩がまごつく。

かなり迷って、ようやく彼は、画面が見えるくらいの距離までやって来た。

私の手から携帯を受けとって、じっと眺める。



「…そっか、もう小学生だよね」

「お母様もお元気そうですよ、私はお会いしていませんが」



先輩のいないところで、これ以上千歳さんたちに介入するのはやめようと思って、会ったのはあの一度きりだ。

でも千歳さんは、何かとこうして、メールをくれる。

先輩は一歩くんの写真から、目をそらせないみたいだった。



「…千歳が、産まれた子に、一歩って名前をつけた時ね」



携帯に目を落としたまま、ぽつりと言う。



「ああ、この子はもう、乗り越えたんだなって思って」