その時、おいBだぜ、という声が聞こえて、ぎくっとした。



「用意しろ、用意」

「最近あいつ、また盛んなんだろ、天罰だ」



こそこそと楽しげに、水道の近くで悪巧みが進行している。

ひとりの先輩が、B、と大声で呼びかけた。


じわりと汗が出た。

私がいることを気づかせれば、こっちには来ないだろう。

でも気づかれたくない。


何やってんの? というフェンス越しののんびりした声に、いいから来いよ、と答えが返る。

B先輩が、こちらに向かってくる足音がする。

どうして。

どんな顔すればいいの。



「行くぞー、せーの」



明らかにホースを使ったものじゃない、激しい水音が、B先輩のうわっという声と重なった。

やったー、と仕掛けた先輩たちが嬉しそうにはしゃぐ。

見ると、B先輩は至近距離からバケツの水を浴びたらしく、頭から腰までぐしょ濡れで、ぽかんと立っていた。

水の染みた煙草をくわえたまま固まって、呆然と犯人たちを見ている。



「…火消せっていうなら、もうちょっと穏便な方法があるよね?」

「そこじゃねーよ、色男」



追い討ちをかけるように、ホースで水が噴射された。

さすがのB先輩も、腕で顔をかばいながら、何すんだよと抗議の声をあげて、それでもやまない水に笑って逃げる。

あっちに行けばホースにつかまり、こっちに行けばバケツが待っている。

いつの間にか槇田先輩たち4年生も一緒になって、全員がびしょ濡れになりながら、そんな鬼ごっこを楽しんでいた。



「もーやめやめ、終わり、俺の負け」



先輩が輪を抜け出して、こちらに来る。

負け逃げすんな、と罵声を浴びつつ、濡れた頭を一度大きく振って水気を飛ばす仕草に、心臓がしめつけられた。

シャワーやお風呂から上がる時の、先輩のくせ。

ほんと犬みたいだなって、いつも思ってた。