光の中で目を覚ますと、先輩の寝顔がすぐそこにあった。

私の身体に片腕をかけて、枕に軽く顔をうずめて、長い睫毛を伏せている。

こめかみにキスをすると、一瞬くすぐったそうに顔をしかめて、すぐにまぶたがぱかっと開き。

黒い瞳がのぞいたかと思うと、がばっと跳ね起きた先輩が、ものすごい勢いで私の腕をつかんだ。



「今、何時!?」

「えっ? えっと、たぶん8時くらいかと」



きょろきょろしたあと、机の上の目覚ましを確認した先輩は、はーっと息をついて、よかったー、と枕に顔を伏せる。



「何かご用事ですか?」

「午後から。ダメだもう俺、相当気がゆるんでる…」



そう弱々しくこぼしてから、ぱっと顔を上げると、枕に押しつけたせいで乱れた前髪をかき回し。

じっと考えこむように視線を落として、引き締めてくる、と誰にともなくつぶやくと、布団を出ていった。


廊下の先の浴室で水音がするのを聞きながら、私はなんだか、言いしれない幸福に浸っていた。

先輩が、私の前で、気をゆるめてくれたの?

あんなに忙しい人が、目覚ましをかけ忘れるくらい、ゆるんでくれたの?

私といる時に?

もしかして、私といるせいで?


布団を出て、シーツや枕カバーを外して、あとで洗濯するためにざっとたたむ。

干すものはまとめて部屋の隅に積んで、ふうと壁際に座りこんだ時、何かが頭に降ってきた。



「痛!」



さらにゴツンと固いものがぶつかり、思わず頭を押さえて、それが先輩のパーカーだったことに気づいた。

長押にかけたハンガーから、外れて落ちてきたらしい。


そういえば前にも、先輩のポケットに顔を打たれたことがあった。

ライターか何かを入れっぱなしにしてるんだろうと、なんの気なしに右のポケットを探って。

指先が探りあてた、ひやりとした感触に、鼓動がとまった。