怖くなんかないですよ、バカなB先輩。

引かずにいると、その瞳があきらめたように、ふっとゆるんだ。



「…俺は心配するよって、言ったよね」

「はい…」



ごめんなさい…と答える声は、甘えていただろうか。

この期に及んで、優しい先輩。

だけどよく考えて、みずほ、それはね。

それは、きっとね。


ふいに先輩が、じゃあおやすみ、と言って腰を上げた。

思わずそのシャツをつかんで、勢いのあまり引き倒すはめになってしまう。

うわ、と声をあげて畳に崩れた先輩が、忌々しげに振り返った。



「痛いよ」

「ここにいてください」

「寝言は寝てからどうぞ」



じゃあね、と再び立ちあがろうとするところを、なぜか私は必死になって、しがみつくように引きとめる。



「何」

「行かないでください」

「いい加減にしないと、本気で怒るよ」

「怒ってください、できるものなら」

「どういう…」

「やってみせてください、どうせ私に、本気になんてならないくせに!」



自分の剣幕に、びっくりした。

先輩も、あっけにとられた顔をしてる。


何言ってるの私。

そう思うけれど、なんだかもう、とまらなかった。

誰もかれもが、私をバカにしているように思えて。

どこにも必要とされていない気がして。

自分なんてたいした存在でもないって、ことあるごとに思い知らされて。



「私なんか、数にも入ってないくせに」

「なんの話…」

「ちょっと構ってやっただけのくせに」



先輩の胸を、拳で叩いた

ねえみずほ、わかってるよね。

こんな時ですら先輩が優しいのはね。

私を、かばってやらなきゃならない相手と思ってるから。

頭に来ようがあきれようが、それをぶつけるほどの価値すらない、ちっぽけな存在だと思ってるからだ。