あたしはまさかだと思った。

いくらなんでも彼女はそんなことが出来る人間だとは思えなかったから。


「だって
貴之くんのこと好きだもんね」

「それは…」


はっきりと言い返さない彼女こそが本心の表れだと思った。


「だって入学したときから
好きだって言ってたじゃない」


そういえば、最初に話しかけられたときも貴之のことが好きって言っていた。


まさかのまさかだ。

たくさんの人を見てきたけど、ここまで完璧な天然の女にはめられるなんて。


あたしに近づいてくる女子は結局いつも同じ。

利用しようとするか。

陥れようとするかの二択だ。


ズキッと脳裏に響く。


この感覚…


『ねぇ、どういうつもり?』

『死ねばいいのに』


アハハハハッ…


やめてよ!!

『茜なんて大嫌いだ』

もう、ほっといてよ!!


ハッと我に戻った。

…はぁはぁ

息切れや鼓動がまだ治まらない。


あたしはまだ2人で話す明音たちを見た。


「黙っててあげるから
花火に連れてって?」


微笑む奈緒は不気味で、あたしに似た心の醜さを感じた。


きっと明音は承諾するだろう。

貴之のことが好きってあたしにバレたくないなら。

それとも貴之を振り向かせようとライバルは蹴落とすのだろうか。


あたしは醜い感情と重たい荷物を細腕に抱え込みながらゆっくりと教室に向かった