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彼にひどいことを言ったなんて思わない。
だって本当のことだったから。
「茜ちゃぁ~ん!!」
廊下の向こう側からあたしを呼び続ける声。
「あのね、
次って移動教室でしょ?」
息を切らしながらあたしの前に立つ彼女。
毎日しつこく話しかけてくる。
ウザイほどに干渉してくる明音はどこか貴之を思い出させた。
「あのね、これ必要でしょ?」
差し出されたあたしのスクールバック。
重たいのにわざわざ持ってきてくれたらしい。
「次は英語だから、
なかったら大変でしょ?」
英語の先生とはどの生徒にも厳しくて忘れ物にうるさい先生である。
「まぁ。でもいらないよ」
「うそ~!!」
「次の用意ぐらい持ってるから」
「そっか。それなら良かったぁ」
このどこまでもお節介でお人好しなところもまるで貴之と変わらない。
「茜ちゃん。
勝手にどこ行くの?」
「移動教室」
「そっか。一緒に行こ」
優しく笑う顔はあたしに無くて、どこか憎い。
「他の人と行けば?」
「茜ちゃんがいいの。
さぁ行くよ!」
そのまま、あたしの隣をすごく楽しそうにしている。
たった数分の移動時間だけなのに。

