「だから明音も
話し掛けておいでよ!」

「…そうだね」


一応、そんな軽い返事をして一歩ずつ近付いていく。


でもそれはまた別の理由だった。


彼女の席へ向かう。

たった5mほどの距離が長く感じた。


一歩一歩と近づくに連れて女子達の話し声ははっきりと聞こえ始める。


周りの女子の話し声しか聞こえない。

茜ちゃんはジッと本を開いていた。


「ねぇ、貴之くんって
昔からカッコ良かったの?」

「そりゃあ、ねぇ」

「ねぇねぇ、貴之くんの
家も知ってるんでしょ?」

「いいなぁ、
教えて欲しいな!」


昨日の出来事があるまで誰も興味なかったくせに。

勝手すぎるよ。


「私、河崎さんって前から
かわいいって思ってたんだよね」

「私も~」

「前髪切ったら
もっとかわいくなるって!!」


この前までキモい、暗い、ダサいって陰口ばっかりだったくせに。


「ねぇ、友達になろうよ」

「私も友達になりた~い!!」

「私はもう友達だよ!?
ね?河崎さん」


得意げに言っていたのは屋上に呼び出した中の1人だった。