「こんな日に来たくないなら
来なければいいのに」
茜は呆れたようにため息をついていた。
相変わらずの茜の態度に俺は笑ってしまった。
「何?」
「そうだなって思って」
茜の言うとおりだ。
いつも門前で待ち伏せされるし、下駄箱も机の中もチョコだらけで溢れ返っている。
休み時間に呼び出されるのが嫌だからいつも非常階段に逃げるんだ。
放課後も練習中から渡そうと必死だ。
だから、目が合えば苦手な作り笑いをしなくちゃならない。
だからバレンタインはいつも以上に苦手だ。
「でもちゃんと来るよ」
「なんで?」
「もうすぐ試合だから」
俺は清々しく言う。
「どうしてそんなに
サッカーが大切なの?」
「俺、昔に約束したから」
幼い君と約束したんだ。
俺はエースになると。
茜が憧れていたお父さんのように。
「…そっか」
茜はただそう言った。
約束のことを茜は覚えてなくてもいい。
ただ隣にいて、見守って欲しかった。

