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「ねぇ、中野くん!!」


有頂天で登校してきた貴之は朝から昨日の女に急に引き止められていた。


「…えっと、確か昨日の…」

「明音ちゃんだよね!」


後ろからあの女ったらしが声をかける。

本当に女の子の名前を覚えるのは天下一品だ。


「あ、はい。
実は茜ちゃんが…」

「あかねちゃん…?」


陽平がいきなり困惑している。


「あ、違います。
もう1人の茜ちゃんが…」

「あぁ。もう1人の茜ちゃんか」


目の前にいる明音ちゃんが自分のことを『あかねちゃん』と呼んでいるのかと思ってしまったのである。


「茜に何かあったのか?」

「クラスの子たちと
一緒に連れて行かれて…」

「友だちじゃないの?」

「いや、いつもは1人でい…」


貴之は返答を待っていられないのか走りだした。


「貴之、場所分かるのか?」

「早く言え!!」


怖い形相で叫んでいた。


「屋上…」


まだ言い終わっていないのに、それだけを聞いてすぐに飛んで行ってしまった。


「さぁ、俺たちはゆっくりと
教室にでも行きますか」

「でも茜ちゃんが…」

「大丈夫。
最強のあいつが行ったから」


2人はそれだけを言うと笑っていた。

そして貴之の投げ出した鞄を持って教室に向かった。