「貸してやりたいけれど、
振られた俺は貸せないんだよ」


それは本当だった。


俺が好意を持ち続けてしまう。


そして何より、彼女の本当の想いが俺に向けられないと分かっていたからだ。


「…悪いな」


明音ちゃんは首を横に振り続けていた。


「そ、そろそろ
ケーキ食おうぜ!」


そこに場の空気を和やかにしようと陽平が提案する。


「…そうだな」


俺たちはしょっぱいチョコレートケーキを食べたんだ。


あの味は忘れられない。



***


茜は何も言わずに俺に寄り添っていた。


信じられないほど、胸が跳ねていた。


そんな記憶がしっかりと残っていた。


あの時は幸せだったんだ。


「貴之」

「あ、はい!」


俺は急に呼ばれて、驚く。


でも、茜の酔いは全然さめていなかった。


「貴之…、
本当に断わったの?」


茜は酔っているからかはっきり聞き取れないけれど、何が言いたいのかはなんとなく分かった。