「人違いだって言ってるでしょ!!」

「間違えない」

「いい加減にして!!」


そのまま彼女は壁に当たる。

もう、完璧に行き場は無い。


やっと捕まえた。

そして俺はもう逃がさないと手首を掴んだ。


「河崎 茜」


後ろから女の声がした。

その言葉を聞いて目の前の彼女はビクッと肩を震わせた。


全くこっちを見てくれない。

そして逃げ出そうと俺の手から逃れようと必死にもがく。

薄暗いところから現れたのはもう一人の明音ちゃんだった。


その明音ちゃんが持っていたノート。

そしてその名前に俺も理性を失っていた。


「…やっぱり茜なのか?」

「………」


返事もなくただ首を横に振るばかり。


「茜なんだな!!!」


そして掴んでいた腕を引き寄せ、力強く抱きしめた。

それでも茜はこの胸から逃げたくて、俺の腕を押しのけようともがく。


でも、もう離さない。一生離さない。


茜と別れてからこの10年間。

どんなにこの日を待ち受けていたか知っているか?

お前の苦しみに気付いてあげられなかったことをどれほど悔やんだか知っているか?

俺があの時、未熟だったことをどんなに痛感したのか知っているか?


でも、その時の茜は逃げたい、消えたい。

その一心だったね。


小さいときの約束を叶えられると夢に見てきた俺はショックだった。


大きくなってもお互いを想う気持ちだけは一緒だと思っていたから。

10年の月日はそんなにも二人の間に大きな溝を作っていたんだ。

あの時、嬉しいと思ったのは俺だけだったのかもしれない。