「あたしは
全ての感情を殺したの」

「………」

「表情もいらない。
友だちもいらない」

「それは
本心じゃないだろう?」

「そんなことない!あの日に泣き叫んだの。お父さんを返して。あたしはどうなっても構わないって!」

「感情は残ってるよ。
お前は泣ける、まだ笑える」

「そんなこと…!」

「あるんだよ。
心の底で眠っているだけだ」


俺は茜の背中を優しくさすってやる。


もう我慢しなくていいんだよ。


「変わったのは…
間違いだったの?」


彼女は俺の顔をまっすぐに見て辛そうに言った。


俺は首を横に何度も振った。


「間違いじゃない」

「自分を
嫌うのはいけないこと?」

「間違っていないよ」

「あたしは誰?」

「茜だよ」

「あ…か…ね…?」


俺は首を縦に振った。


「過去の優しい茜も、小学生の頑張ってた茜も、中学生の大人しい茜も、今の芯を持った茜も、全て茜だろ?」

「…分からない、
分からないよ」

「茜は変わっていない」

「あたしは
変わってしまったんだよ」