「…えっと、何かなぁ?」

「ほら、貴之言えよ。
大事な話だろ」


煽り立てるように冷やかしと絶叫の声は増していく。


「…がう……違う」

「え?」

「あかねじゃない!!!」


急に怒鳴り出した俺。

周りの連中は目を丸くしていた。


「いや、でもこの子が
あかねちゃんだから…」

「違うんだよ!!」

「何が違うんだ?」


全く違う。

幼い時の記憶だから覚えてないとか、美化してるとかじゃない。

何もかも違うんだ。


不意に死角に入ってきた。

一番奥の窓辺に座るみつ編みの女。

気がつけば人ごみを掻き分けて、彼女の前に立っていた。


こんなにも大騒ぎの中、微動だにしない彼女は、こっちも見ないで黙々と本を読み続けていた。


興味ないって感じだった。


「…あかねだろ?」


すると本を読んでいた手を止めて彼女は言った。


「…違います」


俺を見たその女は無表情で、ビクともしない。

でも俺にはどこか小さく震えているように思えた。


あの時、やっぱり怖かったのか?


「本当に
『やまがみ あかね』じゃない?」


後ろから蒼次が聞き返す。

静寂な雰囲気は俺にとって息が詰まりそうだった。


それは同じだったかもしれないな。