同情心だけじゃない。


「私、諦めないつもりだよ」


私は明るく蒼次くんに向かって告げる。


蒼次くんも「そうか」って頷いていた。


そして「頑張れ」って言ってくれた。


そんな彼に手を振って、廊下を駆けて行った。




***


明音ちゃんは嬉しそうに廊下を去っていく。


その後ろ姿を蒼次は1人で眺めていた。


同時に俺の心は寂しさが募っていく。


「なんで
こんなに辛いんだよ…」


これで貴之は幸せになれると思う。


本当は貴之の傍には茜にいてもらいたかった。


長い間思い続けたんだから、一緒になってもらいたい。


それに茜の傍に貴之がいる方がいい気がしていた。


「何より最初に会った時よりも
人間っぽくなったしなぁ…」


茜の冷酷な態度は変わらない。


でも少しずつだけど確かに変わっている。


あの茜が明音ちゃんを助けるために舞台に立ったのも、変わってきている証だろう。


そして変えたのは貴之だと思ったんだ。


でも、違った。


いつも素顔を見せない茜が舞台に立ったのは裕人がいたから。


幼なじみとして、茜の幸せを考える。


裕人の隣がいいなら、その選択もありなのかもしれない。