キレイな茜色の空だった。

下から呼びかけられた声は少し怒っていた。


「貴之」


ゆっくりと顔を下ろすと茜が怒っているようだった。


「何?」

「何じゃない。
この記事って本当だったんだ」


差し出された紙切れ。

俺はそれを取り上げて破った。


「これは嘘だ!」

「嘘。裕人と戦うって聞いた」


俺は何も言えなかった。

同時に諦めて開き直った。


「確かに裕人と約束した。負けた方が茜から手を引くと」

「何それ…」

「茜は裕人に勝って欲しいって思ってるって知ってる。でも俺も負けられない」


真剣に堂々と言い切った。


「これは男の勝負だ」


その勢いのまま言葉を付け加えて告げる。

「試合をちゃんと見届けて欲しい」と。


そして俺はたった1人で非常階段を後にした。



茜はただ1人、非常階段で大きなため息をもらした。


「何考えてるのよ、2人とも…」


茜色の空はゆっくりと薄暗くなり、星が瞬き始めていた。


「もう、ほっといてよ。
お願いだから…」


あたしには2人とも何考えてるのか、さっぱり分からない。


あたしのために戦うとか笑える。

何よ、それ。

あたしの気持ちを無視して。


あたしのことを考えているなら分かるでしょ。

関わらないで。

もう、あたしで遊ばないで。


あなたの気持ちなんて知りたくない。