「『嫌いにならないで』は中野くんに向けて言った言葉だと思う」

「………」

「だから中野くんの
前だと素直だと思いました」

「………」

「だから彼女を助けて下さい」


彼女はもう一度、俺なんかに頭を下げた。


俺は何も出来ないのに。

何か出来るなら俺じゃなくて裕人だ。



この時、俺は身をもって感じてしまった。


彼女の心の傷を治すことが出来るのは俺じゃなかった。


茜に言われた通り、ただの偽善者だった。


今更そのことを思い知らされたんだ。


茜が憎んでいる人物も、救って欲しいと思う人物も俺じゃない。


彼女のために何が出来るのかを今までいろいろと考えてきた。


けれど、これほどまでに何もできないと思ったのは初めてだった。


それでも心の片隅で何かしようと考えてしまうのだ。


そして気が付けば駆け出していた。


誰かの前で笑って欲しい。


誰か前で泣いて欲しいと思う。


感情を示して欲しいと思う。


俺が助ける、救えると信じて突っ走ってきた。

ただ、まっすぐに。


道は見えない。

それでも何かをしようと走ったんだ。


やはり彼女のために。