どうして君がここにいたのか。


どうして君が着飾っているのか。


どうして君が皆からの注目を浴びるようなことをしているのか。


さっぱり分からない。


今までに知っている彼女では、絶対にこんなことはしないに決まっている。


特に10年ぶりに再会した君ならば…。


だから、どうしても信じられなかったんだ。


俺は茜の綺麗にしている姿に、舞台に立つ姿に驚いた。


同時にやっと閉ざしていた心を開いたとも思ったんだ。


心を開いてくれたのならば嬉しいと思うのが普通かもしれない。


しかし、嬉しさと同時に何とも言えない複雑な気持ちになったんだ。


俺だけが知っていればいい。

俺だけが理解していればいい。


俺だけが君の全てを分かっていればいい。


そう心の隅で思っていたからだろうか。


だから嬉しさとともに、少し悲しかったんだ。


もしくは、君のことを少し知っていることにうぬぼれてしまっていたのだろうか。


その罰なのかもしれない。


でも今は、心で考えていても仕方がない。


だから俺はとりあえず、ひたすらに走った。


がむしゃらに走り続けた。


何を言おうかとか、そんなの次の次だったから。