僕の可愛いお姫様

スープを一口飲んで、梅雨李はスプーンを起き、パンを一口齧る。
味の評価への言葉も無い。

「気に入らなかった、かな?」

訊く俺に、梅雨李は慌てて首を横に振る。

「ちがっ…違うのっ!
風邪気味なのかな…ちょっと味覚がおかしくて…。」

申し訳なさそうに俯く梅雨李に、優しく声をかける。

「気にしなくていいよ。
ねぇ、味見だけでもいいからステーキも食べてみてよ。割と良い肉なんだ。」

軽く頷いて、梅雨李はナイフとフォークを手にした。

「柔らかい…。」

切り分けながら、梅雨李からは感嘆の声が漏れる。
一口食べて、彼女は目を丸くした。

「こんな柔らかい肉、初めて…。」

「そう、良かった。」

今度は気に入ってくれた様子に安堵する。

放っておけば、直ぐに硬くなる肉だけど、とは言わなかった。
火を入れてもまだ柔らかい事が奇跡にも思える。

「死後硬直」、などと不穏な言葉が頭の中を駆け巡る。
人間には、動物には、どれくらいの時間でソレが起こるのだろう…なんて、どうでもいい話だけど。

未だ柔らかいその肉が、今夜の二人を祝福してくれている様で、自身はその肉を口にしないまま、俺はほくそ笑む。