僕の可愛いお姫様

「莉世。」

漸く俺が声を発した時、「向こう側」がシン、と静まり返った気がした。

「………え。何で…。」

「本当に俺なのか。」と、疑っていそうな、だけどそうに決まっていると、既に分かっているのであろう、不安そうな声。
急に弱気になる莉世の声に、七変化だな、と俺は面白くなる。

「どういう事…?梅雨李に、何かあったの?」

恐る恐る訊く莉世に、俺はなるべく明るい声を作ってやった。

「何もないよ。ただ、ちょっと事情があって、俺の部屋に居る。」

「事情って…何それ…全然分かんないんだけど。」

混乱していそうな莉世に、俺は冷静に答える。

「ちょっと、ね。『保護』と言った方が正しいかな。

それでさ、梅雨李、自分の家に帰りたいらしいんだけど、『あんな事』があった後だから…一人で出歩かせるのは心配なんだ。
莉世、迎えに来てくれないか?」

『あんな事』と暗に濁らせたのは、別に何も無い事に、信憑性を持たせる為だ。
「口でははっきり言えない、そう言わざるを得ない事。」
明確でない物に、人は勝手に恐怖心を抱いてくれる。