ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜


「それじゃ、これを読んで訳してごらん」

 言うなり子爵は立ち上がって、本を手に目の前に来た。手渡されたのは、フランス語で書かれたマナー読本だ。試験と言うわけね、いいわ。

 三ページすらすらと読んで訳すと、子爵は驚いたように眉を上げ、結構、というように頷いた。

 そう、必要な条件は満たしているわ。家庭教師協会のお墨付きだってちゃんと貰っているもの。少し強気になって、内心こう付け加える。

 何か考えていた彼がふいにベルを鳴らした。やってきたメイドに妹を呼ぶよう命じる。

「いいでしょう。合格です。妹のマーガレットを紹介しましょう」

 ローズは心底ほっとした。すぐに扉が開き、十歳くらいの人形のような巻き毛の少女が部屋に駆け込んで来た。

「お兄さま、お呼びですって?」

 子爵がさっきまでとは打って変わった優しい笑顔になった。見ていたローズも、どきりとするほどに。

 彼は飛びついてきた妹にキスすると、立ち上がってお辞儀した彼女を振り返った。