ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜


「何かいいものでも見つけたのかい?」

 彼はゆったりと椅子にもたれかかり、面白そうにこちらを眺めていた。

 ローズは我にもなく赤くなった。ああ、これでは世間慣れしていない小娘そのものだ。自分を蹴飛ばしたくなる。

「君はどうやら書物好きらしいね。興味ある本でもあった?」

 気さくな子爵の口調に勇気を奮い起こすと、唇を湿してちょっとあごを上げた。

「本の中には、今まで知らなかった新しい世界があります。新しい思考と出会い、それを考え消化する中でたえず何か発見をしていくことは、とても楽しいことだと思われませんか?」

 彼はにやっと笑って、机上の水のグラスを口に運んだ。

 生意気だと思われたのかしら。心配になったが後の祭りだ。だが子爵は紹介状を広げると、ゆっくりと尋ねてくる。

「十八歳?」

「はい、ですがもうすぐ十九になります」

「ふーん、若いんだね。それで何が教えられるのかな?」

「読み書き、数学、フランス語、ドイツ語、ピアノ、刺繍といったことです。家庭教師として必要な条件は満たしていると思いますけれど」