その涙を見るなり、胸がずきりと痛んだ。だが、優しく指先でぬぐってやりながら、エヴァンはなおも詰問を続けた。
「どうしてぼくから逃げる?」
「逃げてなんか……」
「いや、君は逃げてるさ。ぼくがソールズへ来た最初からそうだった。気付かないようなでくのぼうだと思われているなら、心外だね」
彼はまだ、片手で彼女をしっかりと抱えたままで、彼女の表情をよく見ようと、うつむきがちな顔を無理にあげさせた。鋭い眼が、心の底まで見透かすように探っている。
このまま彼の腕の中にいては何も考えられなくなって、彼に全てをゆだねてしまうだろう。
いっそ、そうしてしまいたい、という強い誘惑も感じたが、ローズはエヴァンにも自分にも必死になって抗った。
腕をつっぱり身体をひねり、なんとか抱擁から逃れようと抵抗する。
だが、そのささやかな抵抗も、彼の怒りの火にますます油を注ぐような結果を引き起こしたに過ぎなかった。
彼はローズを押さえる腕に一層力を込めると、再び罰するように額や頬に、そして唇にキスを始めた。
ローズがどんなに必死になって顔をそむけようとしても無駄だった。次第に足がぐらつき、立っていられなくなってくる。
ついにバランスを崩し、二人は折り重なるようにその場に倒れ込んでしまった。
