ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜


「何と言われました? あなたのご婚約者? そ、それはつまり……、あの人のことですか?」

 牧師が怪訝な顔で振り返る。ローズは石になったように動かなかった。

「そう、彼女です」


 エヴァンはそのまま彼の脇を通り過ぎるとローズに近づいた。つくづくと眺めてから、棘を含んだ陽気な声をかける。


「やあ、ローズマリー、すっかり元気になったようだね。ちょっと見ない間に、こちらの牧師さんと楽しくやっているようで嬉しいよ。だがもういい加減で遊びはやめて、ぼくと一緒に来るんだ。それとも……」

 牧師の方をちらりと眺め、冷たい微笑を浮かべた。

「君を連れて帰るには、彼と決闘でもしなければならないのかな?」

 俯いていたローズの顔がさっと上がり、二人は激しくにらみ合った。

「何てひどいことを! 神様を畏れないの?」

「ぼくが何を恐れているか、君にどうして分かる? いいから来るんだ!」


 エヴァンが力づくで彼女の腕を引っ張り立ち上がらせた拍子に、椅子がひっくり返って大きな音を立てた。