「それは……」
ローズが返答に困って口ごもった時、牧師館の扉を強く叩く音がした。
応対に出たウォリス牧師は、ドアの前に冷たい表情で立つ男を見て、一瞬とまどった。
だが次の瞬間、気を取り直したように会釈すると、丁重に中へ招じ入れた。
「閣下、ようこそ当牧師館へお出でくださいました。わたくしは教区担当牧師のウォリスと申します。本日はどういったご用件でしょうか」
入ってきた男の気品ある顔立ちと物腰、洗練された旅行用の衣服をつけた身なりから、彼が貴族であることはすぐわかったようだ。
牧師は丁重に客の前に歩み出た。彼は、テーブルについたまま唇を噛んで俯いたローズにさっと視線を走らせると、ゆっくりと帽子と皮手袋をとった。牧師に握手の手を差し伸べる。
「お茶の最中に突然申し訳ない。わたしはウェスターフィールド子爵、エヴァン・ジェイムズと申します。実はソールズのキングスリー家で、こちらにわたしの婚約者がお邪魔していると聞き、迎えに来たのです」
こう言いながら、もう一度彼女の方に鋭い目を向けた。
