牧師館は教会堂からそう遠くないところにあった。
通りすがりの婦人に教えられた建物の前に立ち、子爵は唇を引きしめた。
中に入ろうとした時、大きな洗濯桶を抱えたローズ本人が、建物の裏口から裏庭の方に出て行くのが目に留まった。
どきりとする。
何をしているんだ?
隠れて見てやろうと、見つからないように離れた木立の間を歩きながら、裏庭に入っていった。
寒空にもかかわらず、腕まくりしてシーツや敷き物を次々と干していく彼女の楽しそうな様子が、はっきりと伺える。
彼は今すぐ出て行って、彼女の手から洗濯物を投げ捨ててやりたいのを、ぐっとこらえていた。
まだ病後間もないのに……。だいたい、なぜ彼女はあんなことをしているんだ?
あれはメイドの仕事だ。断じて、将来の子爵夫人がやることではない。
そこへ牧師らしき人物が現れ、彼女と何か話し始めた。やがて、二人で笑いながら建物に入ってしまった。
衝撃に、激しい怒りが混じる。
ここ数日の疲れが、一気にどっと押し寄せてくるような気がした。彼は木に身体をもたせかけ、荒々しく息を吸い込んだ。
いいとも。彼女がそういうつもりなら、もう容赦はしないぞ。
エヴァンは決意に満ちて、牧師館に近づいていった。
