出せる限りのスピードで走らせながら、彼は心に沸き上がる言いようのない苦い痛みと憤りをこらえていた。
キングスリー夫人の言葉が、先ほどから脳裏を激しく駆け巡っている。
『……ミス・レスターもそれは乗り気でしてね。すぐにも向こうの牧師館に行きたいとのことで……』
まったく、何てことだ……。
どうか間に合ってくれ!
彼女が取り返しのつかないことをしでかす前に、何としても連れ戻さなければ……。
いや、落ち着け、落ち着くんだ。いくらなんでも会って四、五日では、何もありえないはず……。
はやる心に懸命にそう言い聞かせながら、彼はシークエンドの村が見えるまで、窓の外を見据えたまま、身じろぎもしなかった。
村街道から、やがて十字架の立つ教会の尖塔が見えてきたので、子爵はそこで馬車を止めさせた。
「ここからは一人で行く。お前も長旅で疲れたろう。どこかの家で馬の世話を頼んで休憩してくるといい。二、三時間したら牧師館に戻って来てくれ」
御者にこう命じるとポンド札を一枚与え、思わぬ大金を手に小躍りしている御者をその場に残し、教会に向かって歩き始めた。
