やはり、一度ロンドンへ帰らねばならないか。

 だが、彼女を明日すぐに長旅に連れ出すのは無理だ。ここへ預けて行くしかない。

 何より意外だったのは、再会したローズの頑なさだった。

 認めたくなかったが、それがかなりこたえていた。

 もちろん彼女が突然失踪した背後には、それなりの理由があったのだろうと想像はしていたが……。

「くそっ、こんな時に!」

 彼は手にした手紙をぐしゃりと握り潰した。



 翌朝、子爵は旅支度をすっかり整えてから、ローズの部屋に入っていった。

 彼女はベッドに起き上がっていた。急用で、どうしてもロンドンに戻らねばならなくなった、と伝えるなり目を伏せてしまう。

「大丈夫さ。君は何も考えず、ここでゆっくりしておいで。ぼくが戻ってくる頃には、完全に元気になっているはずだ。この家の者に、君の世話はしっかり頼んである。何も心配はいらないよ」

「エヴァン……」

「たった一週間さ。すぐに戻ってくる。それまで君は、ここを決して動くんじゃないよ。わかったね」

 念を押しながら子爵は身をかがめた。元気づけるように、彼女の額に優しくキスすると、振り返りながら部屋を出ていく。

 閉まった扉を、ローズは唇を震わせながら、しばらくじっと見つめていた……。