「ダンバード侯爵の? アンナかい? ぼくが彼女と婚約したと祖母や叔母があの夜君に言ったって?」
真剣に頷く少女の泣きそうな顔を見て、心ない身内に強い憤りがこみあげる。
「それで君はそのたわ言を少しも疑わず、真正面から信じた、と……。だから出ていったんだね」
「わ、わたしだって信じたくなかったわ。でもあのパーティの様子を見てしまった後だもの……」
痛々しい色が浮かぶ茶色の瞳をしっかり捉え、彼は辛抱強く言葉を継いだ。
「アンナはもう二か月も前に、ゲイリック伯と結婚したよ。確かにそんな話も一時あったかもしれないけど、彼女はぼくには少しもったいない人だね。アンナとは古いつきあいだし、今だってもちろんいい友達さ。それ以上でもそれ以下でもないよ」
子爵は両手でローズの顔を包み込んだ。僅かな表情の変化も見逃すまいと、ダークブルーの目が見つめている。
