ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜


 キングスリー夫人の愚痴はえんえんと続く。氏は口ヒゲをひねりながら、しばらくチェス盤を見つめていたが、「それでは、そろそろ行動に出るかな」とつぶやいた。

「行動って、お父様……?」

「ナイトを仕掛けよう」


◆◇◆


 日暮れ時、部屋にはローズ一人きりだった。ぼんやりと壁の絵を眺めていると、ノックの音とともにキングスリー氏が姿を見せた。

 ローズが慌てて身を起こそうとするのを遮り、彼は慇懃に話し始めた。

「お加減はいかがかな? ミス・レスター。だいぶ顔色もよくなってきたように見えるが」

「はい。お蔭様で、ずいぶん体も楽になりました。突然このようなご迷惑をおかけしまして申し訳ございません」

「いや、なんの、なんの。お安い御用ですよ。せっかくだし、ゆっくりしていらっしゃい。メアリーも閣下と仲よく楽しそうに過ごしていることだし」

「……?」

 ローズの表情がこわばるのを見ながら、氏はゆったりと続けた。

「実は閣下がメアリーのことを、いたくお気に召されたらしくてね。まだ内輪だけの話だが、近々お申し込みがあるかもしれないのだよ。いや、あなたに黙っているのもどうかと思い話すのだが」

 と言うことは、内輪といいつつ屋敷中の者がすでに知っているということだろうか。

 ローズは愕然とし、その後何を話したかまるで覚えていなかった。

 氏が立ち去った後も、じっと寝台の天蓋を見つめていた。瞼の奥がひりひりする。

 これは性懲りもない愚かな自分への罰かもしれない。