ロンドンの独身貴公子が、突然この屋敷に滞在する事が決まり、てんやわんやの大騒ぎで準備を整えて迎えた。
メアリー自身、取り寄せたばかりの最新流行のドレスを着け、精いっぱいおしゃれしてクリスマスパーティに望んだのだ。
ファーストダンスに誘われ、全ての苦労が報われたと天にも昇る心地になったのも束の間、突然子爵は名もない村の女教師をこの屋敷に連れてきて、片時もそばを離れようとしないとは……。
「お父様、いったいあの娘はなんなのよ?」
四日目、ついにメアリーは爆発した。息子とチェスをしていたキングスリー氏が、片眉をあげて娘を眺める。
「ローズマリー・レスターかい? あれはなかなか気立てのいい娘だよ。器量もまったく悪くないな。お、いかん! このビショップは待ってくれ」
「あなた、よくもまぁそんなにのんびりしていらっしゃれること!」
娘の声を聞きつけて部屋に入ってきた夫人も、厳しい顔で夫を見やった。
「わが娘に降って沸いた玉の輿のチャンスを、もう少し真剣に考えていただかなくては困ります」
「そうよね、お母様」
メアリーが甘えたように母親に擦り寄る。
「こんな田舎暮らしで、社交界にしょっちゅう出入りしているわけでもないわたくし達の娘が、どうやったらいい縁談を見つけられます? あの方は子爵で若くて独身。まったく千載一遇の機会だと言うのに、そんないい加減な態度で」
