「やっと目が覚めたね、ぼくの眠り姫。このまま目を覚まさなければどうしようかと思っていたよ。気分はどう?」

 本物の彼を見て、すぐには声が出なかった。冗談を飛ばしているが、彼もかなり疲れているようだった。

 きれいに梳かされた黒髪もいつもの艶を失っている。何と言えばいいのかしら。

 その時、さっきの看護婦の言葉を思い出した。

「……ずいぶんご心配をおかけしたそうですね?」

 無理に微笑んで見せると、彼はベッドの端に腰をかけローズの力ない手を取って両手で包み込んだ。

「まったく……、無茶をするんだからね」

 彼の目の奥に何かが走った。

「あの晩、もし君の部屋を訪ねなかったら、と思うと今でもぞっとするよ。あんなひどい所で、君みたいな華奢な人がいつまで耐えられると思ってたんだい? もしぼくが行くのがもう少し遅かったら、今ごろどうなっていたか」

 彼女を気遣ってか、話し方はあくまで穏やかだった。それだけにその言葉の裏にある痛みが一層感じられ、ローズは辛くなった。

「子爵様……」