過去を思い返すように少し沈黙した後、彼女の目を見つめながら続けた。

「父が亡くなった後、一人息子だったぼくに爵位と家督が回ってきた。そしてその時初めて家の現状が、思っていたよりずっと厳しいことを知ったんだ。父はそちら方面の才はなかったようでね。あのレイクサイド・ガーデンも人手にわたる寸前になっていた。ショックだったよ。その後、いろいろ学ばなければならなかったし、調査も必要だった。どうしたらウェスターフィールド家を立て直せるのか。祖母はプライドが高い人だった。誰にも相談できることじゃなかった……」

 そんな苦労があったなんて。エヴァンがさっきよりずっと身近に感じられる。

 彼のことではまだ知らないことがたくさんあるようだ。


「その頃だっけ。マギーが教育を必要とする歳になったのに気づいて、家庭教師を雇おうと思った。そこへ君がやってきたんだ。君を一目見た途端、ある絵を思い出した。柔らかな金髪の微笑むマドンナの絵だ。こんな人が現実にいるのかと本当に驚いたよ。それから君のことを知れば知るほど、どんどん君に惹かれていくのに気づいて、最初は身分違いだと何とか自分に歯止めをかけようとしたんだ。君は何も知らなかったようだけどね」