とんでもないとばかりに即座に拒否したローズを見て、むっとしたように彼が唇を引きしめた。
けれど、彼女はそのまま庭に降り立つと、宵のとばりが降り始めた小道を足早に歩き始めた。
彼の視線が追いかけてくるのを、痛いほど背中に感じながら。
やっと屋敷を出ると、文字通り脱兎の如く丘を駆け下り始めた。
息を切らしてようやく街道まで来る。しばらくぼんやり歩いているとガラガラと轍の音がして荷馬車がやってきた。お屋敷の厨房に食糧を運んだばかりらしい。
ポケットにあったペニー硬貨を渡して下宿のあるバンリー家へ回ってほしいと頼むと、心よく引きうけてくれたので荷台に崩れるように座り込んだ。
まったく何て一日だったことか!
