すぐそばで、見知らぬ誰かが怒っている声を聞きながら、ローズはとうとう気を失ってしまった。


「もう大丈夫です……。が、どうしてそんなにボロボロになってるんですか、あなたまでが!」

 子爵の上等な上着もズボンもシャツまでがぐしゃぐしゃになっていた。

 殴られて唇を切った顔を一瞥するなり、警察を伴い入ってきたカーターは思い切り咎めるように声を荒げた。

「間に合ったな、カーター」

 手の甲で口元をぬぐいながら、エヴァンが朗らかに答える。

「もちろんです。わたしを見くびらないでほしいですね。ああ、あなたの指図なんか無視してもっと早く突入していればこんなことには……」

「終わりよければすべてよし、さ」

 カーター・ラスコーが向ける強烈な非難の目をさらりとかわして、彼は微笑んだ。

「帰る時に、金の鞄を忘れるなよ」

「当然です! ともあれ……」

 やれやれと深いため息をつきながら、カーターは、エヴァンの腕の中で意識を失ってしまったローズに目を走らせた。

「うまく計画通りに運んで本当によかったです。しかし実に肝を冷やしましたよ。もうこんなスタンドプレイは金輪際ご勘弁願いたいですね」

「ああ、わかってるさ」