彼女が動いたのと同時に、子爵が後ろを振り向き様、自分に銃を向けている男を足で蹴り倒した。

 男が声を上げて尻餅をつき、弾みで銃が床に転がる。

 もう一人の男がエヴァンにつかみかかってきた。エヴァンの掌がその拳を受け止める。

 たちまちローズの目の前で殴り合いが始まり、二人は襟首をつかみ合いながら床を転がり始めた。

 ローズは息を呑んで、さらに必死になって叩いたり足を蹴とばしたりしてアンダーソンの腕の中で暴れ始めた。


 それまでおとなしくじっとしていたのが、効を奏したようだ。

 無抵抗と油断したのか、彼女の自由はまったく拘束されていなかった。

 とうとうアンダーソンがうめき声を上げ、ナイフが彼女の首筋から逸れた。

 彼女を捕まえていた手が緩む。その隙に彼女は無我夢中でアンダーソンから身を引き剥がすと、エヴァンに武器を渡すため、落ちた銃に駆け寄ろうとした。

 ローズが転がっていた拳銃に飛びつこうとしたとき、エヴァンが「それに触るな!」と叫んだ。

 えっ? 彼を振り返った途端、突き飛ばされて身体が横にふっ跳ぶような衝撃を受ける。