恐れ気もなく堂々と入って来たエヴァンは、ランプの光だけの薄暗い部屋に立ち、アンダーソンと共に姿を見せたローズの華奢な全身を確認するように眺めた。

すぐさま、彼女が置かれている状況に目を細める。

「無抵抗のご婦人に何をしている? アンダーソン、彼女からそのナイフをどけろ!」

「おおっと、閣下。まだそのままで。お一人ですな」

「言われたとおりだ。彼女からその汚らわしい手を放せ!」

 次第に彼の声が怒りに低くなり、凄みを帯びてくるのがわかった。数か月ぶりに会うエヴァン! 非常時なのに目に涙が浮かんでくる。

「おお、もちろんです。あなた次第ではすぐにでもお返ししますよ。この通りお元気です。お約束のものは?」

「ここにありやす」

 男がエヴァンに銃を突きつけながら鞄を示すと、アンダーソンが舌なめずりをして「開いてみろ」と命じた。中には確かにぎっしりと札束が詰まっている。

「だ、だめよ! エヴァン! 絶対にだめ!」

 叫ぶなりローズは、後先考えずに自分をつかんでいる男の手に闇雲に噛み付いていた。