「お待ちかねの旦那がお着きだぞ。それ、立つんだ」
ナイフを喉に押しつけられたままでは、返事もできない。引き立てられるまま、息を殺してそろそろと歩いた。
奥の部屋から二人が出てくるのと、古い鉄の扉がギィと鈍い音を立てて開くのと、ほとんど同時だった。
「武器は取り上げただろうな」
ローズに押し当てたナイフを見せつけるようにしながら、アンダーソンが大声で尋ねた。
「へい、チェックしました。懐からこれが出てきましたんで」
ローズは息を呑んだ。エヴァン!
あれほど会いたかったウェスターフィールド子爵が、今自分のためにわざわざ危険に身をさらし、ここにたった一人で来ている!
しかも。彼のこめかみ近くには、男が横から拳銃の銃口を向けていた。
ローズはあっと声を上げそうになった。その途端、彼女をつかんでいる手に力がこもり、喉元にナイフが触れて痛みが走る。
少し切られたらしく、首筋を伝いはじめたぬるい血の感触があった。
