「お前の処分は後で考える。償いをしたければ一刻も早くこの場所に行きつくことだ。彼女に何かあってみろ。お前もただでは済まないからそう思え」
御者は飛び上がって、主人を乗せた馬車を懸命に走らせ始めた。
◇◆◇
裏通りを走ってきたいかにも場違いな箱馬車が窓の下で停まった。
窓辺でそれを確認したアンダーソンが、ふふんと笑ってローズを振り返る。
「どうやら、お出ましになったようだな。思ったよりはるかに早かったじゃないか」
見張りの男が持ってきたパンと水にも手をつけず、じっとうつむいて座っていたローズは、聞くなりびくっと顔を上げた。
先ほどから目の前の男はちびちびと酒を飲んでいた。酒臭い息が顔にかかる。よけようと反射的に動いた途端、ぐいと引き寄せられ、ナイフの冷たい切っ先が喉元に押しあてられた。
思わずはっと凍りつく。充血した嫌な目が間近でにやりと笑った。
