エヴァンはそばでおろおろしている執事に、金をすぐ準備するよう命じた。
「中身は適当で構わない。とにかく見た目多く見えるようにしておくんだ」
目をむいた執事に「みすみすあいつを取り逃がしたりはしないさ」とかすれた声で付け加え、カーターに合図すると周りで様子を窺っているメイドや召使達には目もくれず、まっすぐ書斎に入っていった。
「金をお渡しになるのですか?」
「一時的な目くらましだ。お前がスコットランドヤードを連れてくるタイミングにかかっている」
話しながら、子爵家の紋章入りの便箋を取り上げると、警視庁(スコットランドヤード)の知り合い刑事に宛てて、ことの次第を手短に書きつけ、カーターに手渡した。
「銃声が合図だ。こっちは任せたぞ」
「かしこまりました」
カーターは頷き、すぐさま扉の向こうに姿を消した。
