ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜


「誰がこれを?」

「若い女でございました。酷いコックニーでしたので、おそらく下町の卑しい生業の女ではないかと」

「エルマー邸には? もう確認したのか?」

「もちろんです」

 カーターが引き取った。

「すぐにメッセンジャーを出しました。先ほど『午後から姿が見えず、こちらも心配している』と返事がきたばかりです」

 エヴァンの心臓がドクンと大きく音を立てた。突然呼吸が苦しくなる。手の中で潰した手紙を再び開いた。

「それじゃ、これは事実なのか?」

「その可能性は高いかと……」

 淡々と答えたカーターをエヴァンはきっと睨みつけた。

 くそっ、なんてことだ。それにしてもあいつがどうして彼女を狙った? 自分のアキレス腱と言えばその通りだが、その事実を知っているのは今ここにいるごく一部の者に過ぎないのに。

 外部の者が、まして工場長が彼女のことを知るはずがない……。

 何が謝礼金だ、あのくそったれの畜生野郎め!

 子爵にあるまじき罵りの文句を呟く。内情を漏らしたものを探すのは後だ。彼女に何かあっては取り返しがつかない。とにかく救出が最優先だ。