ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜


「そこにおかけ」

 低い木椅子を示されたが、とても座る気がしなかった。そのまま突っ立っていると背後の男に強引に押され、どっと椅子の上に尻餅をつく。

「あんたを迎えに来ていただけるよう、ウェスターフィールド家に使いを出した。目を通され次第、すぐに閣下自らおいでになりますぞ。それまでは、ここにいていただかねばなりませんな」

「待ってちょうだい!」

 ローズは驚きのあまり鋭い叫び声を上げた。

「どうしてウェスターフィールド家なんです? わたしはエルマー家のガヴァネスよ!」

「何、あんたと子爵の旦那の関係を、わしもちょっとばかり知ってるんでな」

「エヴァンとわたしは、何の関係もないわ!」

「屋敷の者の話では、随分ご執心だったそうじゃないか。まだあんたが可愛けりゃ、言うとおり身代金を持ってくるだろうよ。そいつはわしが当然受け取るべき謝礼さ。これまで何十年もあの工場を管理してやった恩も忘れてあの若造め、人を無一文にして路頭に放り出すとは!」