青ざめた顔にわななく唇をきつく結び、大きな茶色の瞳を潤ませながら気丈に顔をあげた目の前の少女は、もう彼が恋したあどけなさの残る少女ではなかった。

 そう、彼女は成長した。さなぎが蝶にかえるように、今、少女から女へと変容しようとしている。

 もっと何か皮肉ってやろうと思っていた言葉が、ふいに舌先で引っかかる。

 無言で目を細め、エヴァンもローズを見つめた。

 思いを反映するように揺れるブラウンの瞳に出会ったとき、彼はそれまで長い間自分の中に抑え込んできた感情が波の様に溢れ出すのを感じた。

 彼女をここで今すぐ思い切り抱きしめてしまいたい。そんな誘惑に懸命に抗った。

 だめだ! まだいけない! 話が先だ!

 いつの間にか音楽が終っていた。それでも見つめ合って立っている二人の沈黙を破るようにメアリーの声がした。

 業を煮やし呼びに来たのだ。メアリーはローズを無視して二人の間に割り込んでくると、子爵の腕に甘えるように両手を絡ませた。

「ほら、閣下。酔狂はもうおやめになって。お父様がお呼びですわ」

「今行きますよ。先に行っていてください」

 ていねいに答えながら、エヴァンは絡みついてくるメアリーを見下ろし微笑んだ。