図体の大きな労働者風の男に身体を担ぎ上げられ、少し先に留められた馬車に押し込まれてしまう。
あっという間の出来事だった。最後に先ほどの紳士が乗り込んでくると、馬車はどこへとも知れず走り出した。
「あ、あなた達は誰です? ウェスターフィールド子爵の使いと言うのは嘘なのね?」
口から手が離れるや、ローズは震える声で問いかけた。
紳士風の男が目の前で、ふふんとせせら笑いながら、ローズのあごをつかんで顔を覗きこむ。
「なるほど。なかなかの別嬪だな。このままでも結構高値で売れるかもしれん……」
まさか人身売買? ぎょっとして目を見開くと、男が面白そうに大口で笑った。
「いやいや、今すぐではないぞ。子爵閣下がたんまり身代金を支払ってくれるかどうか、期待して待っているといい」
思わずぎゅっと唇を噛みしめた。馬車の窓から大声で叫ぼうとしたが、それより早く口にハンカチを噛まされてしまう。
馬車はテムズ河を渡り、どんどん下町へと入っていった。
