「実は、閣下があなたに是非、お目にかかりたいと仰せでしてね。わたしを迎えに寄越されたのですよ。こちらに馬車が来ています」

 紳士はにこやかな微笑みを浮かべて手招きした。だが、ローズは逆に紳士から数歩後ずさった。

「それは……」

 ローズの中に疑問と葛藤が生じた。彼に一目でも会って、これまでのお礼が言えればどんなにいいだろう! でも、もう彼には会わないと決めていた。

 それに……。

 直感的に何か違うような気がした。

 あのエヴァンが、こんな回りくどい方法で自分に会おうとするだろうか。

 この人は誰なの? これは本当にエヴァンの伝言?

「おや、どうしました?」

 ローズの目に浮かんだ迷いと疑惑を見て取ったのか、男は困った、と言うようにいやな笑いを浮かべた。

 ほとんど同時に、背後に向かって何か合図するように手をあげる。

 途端に、やにくさい分厚い手がローズの口をふさいだ。

 ぎょっとしたローズが闇雲にもがき始めると、身体を背後からがっちりつかまれてしまった。