「よし、お前たち出てこい」

 霧の中からエルマー邸の裏通りに現れたのは、つい先日子爵に解雇されたばかりの片眼鏡の元工場長、アンダーソンだった。

 合図と同時に人相の悪い男が二人姿を見せる。何事か指図すると、彼らはうなずいて去っていった。

 次に現れた見るからに水商売と思しき女に、封をした手紙を渡すと一シリング銀貨を握らせる。これまた嬉しそうに何度も頷いて去った。

 これでいい。お偉い旦那方、今に見ていろよ。

 アンダーソンは充血した目でエルマー邸を見上げると、にやりとほくそえんだ。


◇◆◇


「ミス・レスター、あなたにお手紙よ」

 家政婦から手渡された手紙の封を開いた途端、ローズは目を見開いた。
 白い便箋に男らしい文字で

《ウェスターフィールド子爵閣下より、あなたに特別なお言伝てがあります。直接お伝えしろと命じられています。今日の午後四時に、こちらまでおいでください》

 とあり、さらに、ここからそう遠くない番地が指定されている。