アンナはローズの涙と、その目に浮かんだ苦悶の色を見て、同情したように表情を和らげた。

「ねえ、ご存じ? エヴァンのお母様はマーガレットを出産なさった後亡くなって、それから数年後に今度はお父様が急にお倒れになって。すべてを受け継いだ時、エヴァンはきっと重荷に感じたと思うわ。引き継いだ爵位とともに責任も引き受け、わたくし達が毎日楽しく過ごすことしか考えていない時、工場の経営について一生懸命学んでいた人よ。普通は人任せにしてしまうのに」

「あなたと結婚されていれば、あの方も、今頃きっとお幸せだったでしょうね」

 ローズは思わず呟いた。

 なぜエヴァンはこんなに素晴らしい方を断ったの? なぜそこまでしたの? 自分には何もないのに。本当に彼に与えられるものなんか何一つ持っていないのに。


「でも彼はそうしなかった。そしてわたくしはゲイリックと出会い結婚して、とても幸せになったわ。だから彼も早くそうなってくれたらいいと思っているの。今のエヴァンは、まるで……」

 ローズがぎくりと身体を強張らせるのを見て、アンナは口を閉ざした。

「立ち入り過ぎたわね」そう呟くと手もとのベルを取りあげた。

「あなたにお会いできてよかった。早くエヴァンとお幸せになってね」