ローズの大きく見開かれたブラウンの瞳から、知らず知らず涙が伝い落ちた。そして、それを拭うことさえ忘れていた。
あの夜、そんなことがあったなんて!
なのに自分はその同じ時刻に、老レディ・ウェスターフィールドとウィルソン夫人の言葉に一言も反論できず、あっさりと彼の元を去ってしまったのだ。
エヴァンが侯爵からの申し入れを断ることは、一歩間違えれば子爵家の名誉失墜と、社交界での信用喪失という大変な事態を招いたはずだ。
もっと言葉を濁してごまかし、言い逃れることもできただろう。あるいは――おそらく老子爵夫人が考えたように――自分のことなどその場で切り捨て、アンナを選ぶこともできたはずなのだ。その方がどれくらい子爵家の利益になっただろう。
にもかかわらず、彼は隠し立て一つしなかった。
堂々と誠心誠意を持ってダンバード侯爵に対峙することで二人を味方につけ、社交界では例を見ない二人の関係を、勝ち取ってくれたも同然だったのだ。
