「当屋敷に。彼女は妹の家庭教師でしてね」

「お名前を教えてくださるわね? 今度お伺いしたら是非、紹介して頂かなくてはなりませんもの」

「これ、娘や」

 侯爵が困ったような、半ばあきれたような顔でたしなめた。彼女は父の方を向いて微笑んだ。

「いいのよ、お父様。エヴァンは本気ですわ。わたくしは別にこの方に熱烈な恋をしているわけではないのですもの。それはご存知でしょう? ですから大丈夫、この無礼は許して差しあげるわ。どうぞお父様も認めてあげてくださいな」

 そう言ってアンナは再び子爵の方を振り返った。

「その幸運な方のお名前は、何とおっしゃるの? その内にきっと会わせてくださるわよね」

「ローズマリー・レスターといいます。あなたがいろいろお教え下されば、彼女も早く社交界に馴染めるでしょうね」

 子爵はアンナにもう一度微笑みかけ、手を取って口づけした。


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