今度は子爵が自嘲するように唇を歪める番だった。

「いや、名もない下級役人の娘にすぎません。貴族ですらないのですから」

「何と言った? 気が狂ったとしか思えんな。それで君は、そんな平民の娘を次のレディ・ウェスターフィールドにすえるつもりか?」

 驚いて鋭く問いただす侯爵を、彼は動じることなくまっすぐに見かえした。

「よくよく考えた上でのことです」

「これはこれは、冗談にもほどがあるぞ」

「いいえ、冗談ではございません」

「エヴァン。君は愚か者の青二才ではないと思っていたが……」

 侯爵は呆れたように首を振った。

「わしの見込み違いだったか? そんなことをすれば、言うまでもなく君の家門全体が、ロンドン社交界の笑い者となりのけ者にされるぞ。第一そんな娘に、ウェスターフィールド家を取り仕切ることなど、できるはずもないではないか」